1. 講座レポート 1日目


開始の合図がある前から、教室では英語が飛び交います。

講座の参加者は、留学経験者や交換留学生など、英語での日常会話にはほとんど困らない程度の語学レベルの学生ばかり。
これから就職活動を控えている3年生、就職先がすでに決まっている4年生、英語でのコミュニケーションに意欲的な1年生、中国・韓国・ドイツからの留学生、中には英語が母国語のアメリカ人の留学生も参加し、大学と文化の垣根を乗り越えてチームワークに取り組みました。

今回の講座は東洋大学のキャンパス内で行われ、ベルリッツの教師が講座を担当しました。

一日目、朝10:00に集まった学生の数は30人以上。
ベルリッツから派遣された教師はセミナー講演経験が豊富なJohn。
講座開始と同時に、日本語の喋り声は一切聞こえなくなり、ここから5時間、全てが英語で行われます。

おおまかなスケジュールは以下の通りです。

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1-1. アイスブレーカーとチーム分け

開始2分で、教室はせきを切ったように活発な話声で溢れかえります。

参加者はグループ・プレゼンテーションを行うために7つのチームに分かれます。
ほとんど初対面の相手ばかりの中チームを組むことになるので、まずは打ち解け合うためのアイスブレーカー・アクティビティーが行われます。
自分の席の周りだけではなく、なるべく多くの参加者に声をかけ、自己紹介をするよう教師が促します。

そしてチーム分けです。
ランダムに4人~5人がチームを組み、チーム名を決めるために数分間ディスカッションを行います。
その後、自分たちで決めたチーム名を代表者がみんなの前で発表していきます。

これから2日間を通して、同じチームメンバーと協力していきます。

1-2. プレゼンのディスカッション・準備

チームが決まったところで、教師のJohnから今回のプレゼンのテーマが言い渡されます。
テーマはとっつきやすく広げやすい、「日本の食文化を世界に広げる方法の提案」です。

教師から、ディスカッションをするにあたって制限時間を気にするタイムキーパーの役割を担うメンバーを決めるようにアドバイスがあります。
ただ英語で話すだけでは意味がないのです。
これまでの人生で培ってきた英語力を持ってチームメンバーと共になにかを成し遂げるのが目的なので、時間内に合意形成をしなければならない、という意識を持つことが重要です。

それぞれのチームが輪を作りディスカッションが始まると、各チームはどの日本食文化を、どの国や地方に広げるか話し合います。
テーマが具体化できたら、今度はプレゼンの主張と構成を決めていきます。

この時点では、学生はプレゼンテーションスキルに関してまだなにも学んでいません。
初日の目的はプレゼンを成功させることではなく、以下の3つです。

  • チームメンバーとの関係構築
  • グループワークを通してプレゼンのテーマと内容の決定
  • まず一度プレゼンをしてみることにより、自分たちの現時点での能力と課題の確認

学生たちは初対面のメンバーに自分のアイディアを提案したり、お互いの役回りを決めたりと、チームとして意思決定をしていきます。
方針が固まったら、各自が自分のパートを声に出して練習します。

1-3. 1回目のプレゼンテ-ション

準備時間はあっという間に終わり、すぐに全員の前に出てプレゼンです。

7組のチームは、短時間の中でテーマに対しての主張と根拠をしっかり練ったことを証明しました。
チームワークは抜群です。

しかし1回目のプレゼンでは、全てのチームにおいて、自分たちで作った原稿の後ろに隠れるようにして小さな声で発表する、という学生が目立ちます。
ほとんどの発表者は行儀よく立ち並び、動きも少なめです。

教師は学生に個別にフィードバックを与え、学生たちは自分たちが行ったことのなにが良く映ったのかを学びます。

1-4. グローバルプレゼンテーションスキルの学習

次の学習パートで、学生たちは、プレゼンに傾聴してもらうために重要なのは中身よりも立ち振る舞いだということを学びます。自信が伝わる姿勢、声量、動作、アイコンタクトが説得力を生むのです。短い時間でこれらのことが自然にできるようになるためには、自分たちで実際に行ってみるしかありません。

説得力のある立ち姿

腰に手を当てている人はえらそうに見え、胸を張らずに小さくまとまった姿勢の人は自信なさげに見える。当たり前のことですが、普段意識しないことなので、人前に立って緊張した状態ではやってしまいがちです。学生たちは、落ち着きがあり、なおかつ自信を持っているように映る姿勢を学び、アクティビティーを通して身につけます。

説得力のある声量

小さな声を聞き取ろうとするのは聴衆にとってはストレス以外のなにものでもありません。小さな声で発表していては、「伝える気がないのか」と思われても仕方がありません。学生たちはペアを組み、3m、5mと距離を取った上で準備してあるプレゼン内容を相手に伝えます。このアクティビティーを通してきちんと聞こえる声量がどのくらいなのかを身を持って学びます。

説得力のある動作

プレゼン中、ずっと一カ所に留まっていては、背中を丸め肩を前に出して縮こまっているのと同じです。せっかくある広いスペースを動き回ったり、要所でジェスチャーを交えて話したりすることで自信を示すこともできます。学生たちはアクティビティーの中で、この当たり前のことを当たり前にできるようになっていきます。

説得力のあるアイコンタクト

プレゼン中は聴衆の中のなるべく多くの個人と目を合わせて、本気で「あなたに」伝えようとしている姿勢を示すことが重要です。学生たちはグループにわかれ、プレゼン内容を話しながらまんべんなくアイコンタクトを取り、目がしっかり合ったと感じた聴き手に手をあげてもらう、というアクティビティーを行います。頭ではわかっていてもなかなか実践できないこれらのような立ち振る舞いは、訓練を通して身につけるしかありません。

理解度を高める声のトーンの調整

文章の中の重要な言葉の音程を高くし、それ以外は低く保つのが英語の発話の特性です。これにより、聴き手はたとえ集中して聴いていなかったとしても、大まかなメッセージをつかむことができます。もともと英語が好きな学生や留学経験者はこのことにすでに気づいているはずですが、意識することにより自身の発言が及ぼす効果を正確に理解した上で伝えることができるようになります。

聴衆を巻き込むプレゼン

学生たちは他に、要所で聴衆に質問を投げかける方法を学びます。1回目のプレゼンで、おそらく留学した経験から、すでにしっかり実践できていた学生もいます。それだけ有用なテクニックなのです。まだ実践レベルに達していない学生も、ここでのアクティビティーを通してテクニックを身につけます。

盛りだくさんの初日の最後に、教師のJohnが2日目に挑むに当たっての意識合わせをします。

「ここにいるみんながお互いに上達してほしいと思っているはずです。あなたが失敗するところを笑おうという人は1人もいません。だから、明日は緊張する必要はありません。失敗を恐れる必要もありません。いいですね?」

1-5. 懇親会の様子

英語漬けの1日が終わったかと思うと、学生たちは懇親会会場へと案内されました。
今回の講座が行われた東洋大学には、English Community Zoneと呼ばれる部屋があり、そこでは英語でしか話してはならないというルールが設定されています。
当然、懇親会も英語です。学生と大学職員の間の会話も全て英語です。

私も数人の学生と談笑しましたが、彼ら・彼女らの余りあるエネルギーとモチベーション、英語コミュニケーション能力の高さ、そして社交性の高さに驚かされました。

ある学生は有名IT企業への就職が決まっていて、その企業での公用語は英語だし、外国人の社員も大勢いるから、この講座に参加したと話してくれました。
またある1年生の学生は、最近まで高校生だったにもかかわらず、こうしたコミュニケーションや国際交流の場には積極的に参加していると話してくれました。

私自身、大学で教鞭を取り企業で社員研修を行い、多くの学習者に出会いましたが、今回集まった学生たちの外向き志向と溢れ出る意欲は並々ならぬものでした。
つい、そんな学生たちと長時間議論を楽しんでしまいました。

2. 講座レポート 2日目


前日に発見した課題や身につけたスキルを踏まえて、各チームはプレゼンの内容を練り直します。


2-1. プレゼンの準備

初日に築き上げたチームメンバーとの信頼関係もあり、グループワークはお手の物です。
前日はプレゼンの内容を中心に話し合いましたが、2日目は「伝え方」が議論の中心です。
学生は各々のパートをいかに楽しく、魅力的に、かつ説得力があるようにできるか考え、お互いにフィードバックを与えながらプレゼンをブラッシュアップしていきます。


2-2. 2回目のプレゼンテーション

とうとう、2日間の集大成です。

学生はそれぞれ、以下の中からいくつかのスキルが身についたことを、自らのプレゼンを通して証明します。

  • 安心して見ていられる、自信を感じさせる立ち姿
  • 会場の後ろの席まで届かせる声量のコントロール
  • プレゼン中に歩き回ったりジェスチャーを添えたりといった動作
  • 聴衆とのきちんとしたアイコンタクト
  • 重要なメッセージを強調するために声のトーンを調整する
  • 聴衆全体、もしくは聴衆の中の個人に対して質問を投げかける巻き込み型のプレゼン術

中には、1分から3分の短い持ち時間で上記全てを体現する学生も。

4. 参加学生のインタビュー

出身校も国籍も違う赤の他人が共に助け合い、競い合い、ハードな2日間を乗り越えました。
そこで講座を終えての感想を、4名の参加学生に聞きました。
日本人の学生も、2日間合計10時間英語漬けの流れそのままに、英語で答えてくれました。


4-1. Q: みなさんのバックグラウンドを少し教えてください。

もえこさん(19歳): 秋田出身です。現在外国人とのコミュニケーションについて学んでいます。高校生の時に何度か海外でホームステイをしていて、今年の夏はカナダのブリティッシュコロンビア大学に留学していました。留学した3週間の間他の日本人の学生は全くいなくて、その中でやっていけた自分に自信がつきました。近日中にまた別の留学プログラムの合否を決める試験を控えています


ジュリアスさん(20歳): ドイツから来ました。母国で薬学を2年間勉強し、今年は1年間の交換留学という形で来日しました。ドイツで学んだことに加えて日本で得る新しいスキルを今後の仕事に活かしていきたいです。


しゅうたさん(23歳):10カ月間ミネソタ州に留学後、今年になって帰国しました。


ルーカスさん(20歳):アメリカのノースキャロライナ州出身です。実は留学はもちろん、アメリカを出ること自体生まれてはじめてです。アジア研究専攻で、今年は1年の交換留学で日本に来ています。

4-2. Q: 講座を受けた理由と、受けてみた後の感想を教えてください。

もえこさん: 講座を受けてみたのは、単純に興味があったからです。5大学合同なんて聞いたことありませんでしたし。私は大学の授業などでもプレゼンをする機会が多く、慣れていたつもりでしたが、他の大学の学生と一緒にプレゼンを一から作り上げるのには戸惑いましたけど、すごくやり甲斐がありました。限られた時間の中で初対面の人たちとなにかを作り上げる方法がわかりましたし、自信がついたって実感しています。


ジュリアスさん: ドイツでもプレゼンスキルは重要でした。どの科目の授業でも、プレゼンの内容に関してのフィードバックはあっても、プレゼンの手法についてはプロの観点からのフィードバックを受ける機会はありませんでした。講座を受ける前はまさかプレゼン方法についてこんなに役立つアドバイスをもらうとは想像していませんでした。いくつかのスキルは身についたと感じますし、これからも積極的に使っていこうと思います。


しゅうたさん: 留学から帰ってきて、他の大学生がどれほどの英語力なのか知りたかったのと、自分を試したかったのが参加した理由です。違う大学どうしで、という形でなにかをするのは初めてだったし、難しいのとやり甲斐があるのと両方でした。


ルーカスさん: 参加したのは、「是非ルーカス君も」と参加を促すメールを受け取ったからです。この講座はアメリカ人の僕にはすごく簡単だろうな、と思っていました。きっと他の学生のプレゼンを手伝ってあげる役割なんだろうなと思っていたのに、教師のJohnの機転で僕だけ最初から最後まで日本語で話すという特別ルール!完全に手助けされる側になりましたよ。アメリカにいた頃に勉強した日本語でなんとか乗り切れて、今はホッとしています。でもこの二日間で日本語は上達したと思います。

4-3. Q: この講座から得られたもので最も大きなものはなんですか?

もえこさん: 聴衆の注目の集め方ですね。質問を投げかけたり、声のトーンを変えたり。あと、姿勢!


ジュリアスさん: ジェスチャーとアドレナリンで元気よくプレゼンすることですね。大きく深呼吸すると、話す時エネルギーが出ることがわかりました。


しゅうたさん: とにかく経験ですね。他の大学の学生とコミュニケ-ションを取って、チームとしてプレゼンをするのは簡単なことではないです。自分が話したいことだけ話せばいいわけではなくて、自分の前と後の人の話題と論理的なつながりがないといけないですから。


ルーカスさん: 説得力のある姿勢ですね。両手を背中にまわしてはダメ。あと、日本語でプレゼンするのははじめての経験でした。

4-4. Q: 将来なにをしていきたいですか?

もえこさん: カナダにもう一度留学したいです。前回は本当に英語についていけるようになるので精一杯でした。でも次は、英語を使ってなにかを成し遂げたいです。


ジュリアスさん: 最終的に博士号を取ろうと思っていますが、まずは日本に関連した研究に取り組みたいと思います。


しゅうたさん: 僕はIT企業に就職が決まっているので、まずはMBAを取るために大学院の学費を作りたいと思います。将来は、国連で働きたいと思っています。


ルーカスさん: 僕は英語の教師になりたいです。JETプログラム(外国語青年招致)にチャレンジしてみるかもしれません。

インタビューに応じてくれた学生たちに限らず、参加者は全員、社会での活躍を期待せずにはいられない次世代の人財ばかりでした。

ベルリッツという多様性が高い組織で働いていて日々思うことは、他人とのコミュニケーションを成功させる力と共に、どんな相手とも成功させようとする気概が最も重要だということです。
今回の講座の参加者が日本人も韓国人も中国人もアメリカ人もドイツ人も、一人として臆することなく目の前の相手や課題に向かっていく姿を見て、世の中にこんなに希望に満ち溢れた空間があるのかとさえ思いました。

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