1. 学校の外の世界ではなにが起こっているの?


親の立場から子どもの学びを考える時にひとつ気をつけなくてはならないのが、
「与えようとしているその学びは、日本という国においてのみ、最良とされているものではないか?」
ということです。

日本のトップ大学に入ればその後の人生は比較的安泰、だからいい大学に入れるようにいい塾に行かせる。
当然のことにように思えます。
しかし、これは日本のトップ大学に入学させることをゴールとした教育であって、人生で成功することとイコールであるとは限りません。
これも別段驚くことではないように思えますが、実はここ数年のうちにこれらのことについて深く考える必要が出てきました。

1-1. 英語はできて当たり前の世の中が来る

日本における社会人の世界は、すでに日本人だけのものではありません。大手企業も中小企業も外国人の採用を年々積極的に行っています。なぜなら、企業が活動の範囲を世界に広げなければ大きなビジネスチャンスはないからです。大きなビジネスチャンスをつかめる人材の確保を、たとえば日本人の新卒からだけに限定していると、機会を損じてしまいます。

外国人が日本人の学生より全般的に優れているからというわけではありませんが、やはり世界で仕事をするのに欠かせない英語に関しては外国人の方が即戦力になる人材が多いことは事実です。


英語力をつける日本の学生とビジネスパーソン

一方で、日本の学生も負けていません。大手企業は新卒採用の時点でTOEIC 800点以上といった風に、入口から語学力に関して条件を設けています。新たに入ってくる人材は全員英語ができるため、十数年後には、少なくとも有名企業では全社員英語ができて当たり前、という世界が本当に到来するでしょう。

日本人も外国人と同じように普段から英語を使うようになれば、英語は徐々に「できると有利」から、「できることが前提」になります。すると今度は英語ができるだけではなく、世界中の同僚や取引先と「英語で異文化コミュニケーションを取るのが上手い」人が有利な世界が待っています。

日本人コミュニティーの中だけでの成功を目指していては、先進的なビジネスシーンからは取り残されてしまうかもしれません。


1-2. 「優等生」の定義を考え直さなければならない

「優等生」の日本での定義はなんでしょう?
受験のために猛勉強して、有名大学に入学して、有名企業に就職して・・・
思い浮かぶことを合わせると、優等生とは学歴と経歴で判断するものに思えます。

しかし日本の優等生とは、日本という狭い範囲においての勉学や仕事の頂点を目指す者を指します。日本を含む各国の企業は、日本の優等生の定義に当てはまらない、世界から見て魅力的な人材を求めています。

日本で生涯を過ごすなら日本で頂点を目指しても問題ないと思うかもしれませんが、もはやそうも言えなくなってきました。
日本では少子化の影響もあり、企業が事業拡大をするに当たって海外進出は避けては通れません。

企業の視点から見ると、これから大幅に大きくなる可能性が薄い日本国内の市場でのみ利益を上げられる人材の価値と、無限とも言える可能性が眠る世界で利益を上げられる人材の価値は、比べるまでもありません。


より意義のある頂点を見据える

これはビジネスに限ったことではありません。
わかりやすい例として、プロテニスプレイヤーの世界を思い浮かべてください。
世界戦で活躍する世界各国の魅力的なトッププレイヤーが何人もいる中で、日本国内でしか公式戦に出ない日本人テニスプレイヤーにあえて注目するでしょうか?
スポンサーになろうと思うでしょうか?
国境という概念が薄まった現代のすべてにおいて、「世界で通用する」人の価値の高さは明らかです。

以下の図をご覧ください。

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目指すのが頂点なら、一国での定義に囚われずに、初めから世界規模の頂点を見据えてがんばった方が有意義ではないでしょうか。


1-3. 日本の教育改革:スーパーグローバル大学と高校

社会が求めている人材像の変化に合わせて、日本の大学も教育の在り方を見直し始めています。
それに伴い、一部の高校でも教育の改革が始まっています。

2014年、文部科学省がグローバル人材を輩出する実力を持つ全国37の大学をスーパーグローバル大学に、全国57の高校をスーパーグローバルハイスクールに指定しました。
これらの学校法人は国から多額の予算を受け、各自様々な構想を実行に移し、国際的に活躍できる人材の育成を目指します。

スーパーグローバル指定校の取り組みの中には、例として以下のような目標を立てています。

  • 外国人留学生の数を現状の2倍にする
  • 英語で授業を行う科目を5倍に増やす
  • 外国人教員の数を2倍に増やす
  • 日本人教員が英語で授業ができるように研修する
  • 異文化理解をテーマにした教育を取り入れる
  • 世界でリーダーシップが取れる教養溢れるリーダーの育成を目指す
  • 一方的な授業を減らし、学生参加型の授業の数を増やす
  • 卒業までに全学生が一度は外国へ留学する仕組みを作る など。

「なんだ、高校や大学がなんとかしてくれるんだ」と思うかもしれませんが、大きな目標が定まったとはいえ、現段階ではほとんどの大学や高校が世界を視野に入れた教育の在り方を模索中です。


グローバル化を学校まかせにしない

学生の立場でこれからすべきことを考えるにあたって重要なのは、
「いい高校に入れば、高校がなんとかしてくれるだろう。いい大学に入れば、大学がなんとかしてくれるだろう」
という期待を持たずに、自分で行動することです。
もちろん高校や大学は学生が世界で活躍できる素養を身に付けられるようにやれるだけのことをするでしょう。
しかし活躍を約束することは、誰にもできませんよね。
自分が成功するかどうかを決めるのは、最終的には自分です。
学校がしてくれることはあくまでサポートとして捉え、子ども一人一人が自身のグローバル化に取り組んでいくことが大切です。

スーパーグローバル大学や高校が教育の在り方を模索中なのは、そもそも明確な答えがないからです。
多くのことにおいて正解を教えてくれる「誰か」がいないのが今の世の中です。
だから、人任せにしないで、子ども自身も自分で考え、自分から行動する気質がなければなりません。

2. グローバル教育を子どもの教育に取り入れる


ここまでの話をまとめてみましょう。
子どもの可能性を最大限広げてあげるには、以下の、世界に通用する素養が必要ですね。

① 英語での異文化コミュニケーション能力を持つこと
② なにごとも日本に限定せず、世界を視野に入れること
③ 自分で考え、自分から行動すること

グローバル教育はこれら3つの素養が自然に身につけられることが利点です。
ただ、グローバル教育は教育の方針であって、どこかの教育機関に行けばそれをまるごと売っている、という代物ではありません。
日々の生活に教育方針を少しずつ取り入れていくことが重要です。

その方法の例をいくつかご紹介します。

2-1. 英語での異文化コミュニケーション能力を習得するには


英語でのコミュニケーション能力を身につけるには、様々な国や文化から来た人と英語で話すことを繰り返すしかありません。
なぜ異文化の人と多く接する必要があるかというと、世界の英語を話す人口のほとんどが日本人でもネイティブでもないからです。

日本人やイギリス人とばかり話していると、日本人とイギリス人としか円滑にコミュニケーションが取れなくなります。
世界共通語の英語を上手くなりたいのに、限定された地域の人としかコミュニケーションが取れなくなっては本末転倒ですね。

国や文化によって使う英単語、訛り、発音、言葉の意味やジョークも様々です。
マナーや習慣、有効な接し方も国や文化によって様々です。

だから、多様な背景の人が集まり、なおかつ英語で話さなければならない場に身を置く必要があります。
残念ながら座学だけでは絶対に身につきません。


子どもが異文化コミュニケーション能力を身につける方法

子どものために異文化と接することができて英語で話さざるを得ない状況を作り出すには留学が一番合理的です。
日本語が一切通じない環境でコミュニケーションを成立させる成功体験を積み重ねることで、英語を喋る自信と見た目も考え方も違う他者と接する勇気、伝わる英語を話すコツを見出すことができます。
普段絶対に会うことのない、異なる考え方を持つ人と多く接していくことで、相手によってコミュニケーション方法を切り替える必要性に気づくはずです。

とはいえ、留学は夏休みなどのまとまった休みがある時にしか行けません。
国内で同じ体験をするには、インターナショナルスクールに通うか、英会話スクールで様々な国の教師と話すという選択肢があります。
異文化の人と英語で話す必然性が設定される場は日本では限られています。

私が働く語学学校のベルリッツがなるべく多国籍の、ネイティブと同等レベルの英語力を持つ教師を雇い、英語のレッスンでは英語のみを使うルールを設けているのはこのためです。


2-2. なにごとも日本に限定せず、世界を視野に入れるには

突然ですが質問です。
学生時代は順風満帆でしたか?
ついていけない科目があったり、クラスになじめなかったりなど、なんらかの悩みはありませんでしたか?

少なくともこれまでの日本の教育制度は大学受験合格が目標になっていたところがあり、その方向性に適応できる子どもが優遇される世界でした。
でも子どもの適正、才能や興味が勉学にあるとは限りませんよね。

日本の教育の価値観が悪いわけではありません。
ただその価値観に合わないのに無理やり合わせようとする必要は、これから日本の教育がグローバル化するにつれて徐々になくなってきます。

大切なのは、日本の教育の価値観に固執しないということです。
日本の教育制度の外にも目を向けると、選択肢をグッと広げるヒントがあります。


ついていけないのなら学年を落とす

子どもが勉強についていけないのは、もしかしたら日本で言う早生まれだったり、まだ勉強の大切さに気付いていなかったりするからかもしれません。
海外の学校では、勉強についていけない子どもが1学年下に行くのはよくある話です。
これは、社会の都合に子どもを合わせるのではなく、子ども一人一人の発達ペースを尊重する方が本人のためだ、という考えから行われています。

授業のペースに合わせようとするあまり、勉強ばかりに時間を取られてクラスメイトと交流する時間を奪われては面白くありません。
実際に、私が通っていたインターナショナルスクールでは、1歳から2歳上のクラスメイトは常に3人から4人はいました。

子供を海外の学校に留学させるにも、言語の面でついていけなかったらどうしよう・・・。
海外の学校は学習ペースに関して柔軟なところが多いので、このような悩みが原因で留学を断念する必要はありません。
アメリカのような移民の多い国では、1つのクラスに日本よりはるかに多様な背景の子どもが集まるので、柔軟性がなければやっていけません。


勉強だけが評価対象ではない

入試に合格するのが目標の教育制度は、高い知識、集中力にタフさを育むことに秀でています。しかしその分、勉強以外のことの優先順位がどうしても下がってしまい、結果として多様な才能や技能を持つ若者の輩出には長けていません。

欧米式の教育は逆で、極端に難易度が高い大学入試がない代わりに、学生生活の中でいかに多様な経験をしたかが問われます。以下の例のような経験が多ければ多いほど、学校や大学は学生を高く評価します。

  • 長距離走とレスリングで地域一位になるなど、複数のスポーツで活躍した
  • オーケストラでトランペットの首席奏者だった
  • 3か国でボランティア活動をした
  • 学校の生徒会長になり、校則をより良いものに変えた
  • コンピュータープログラミングの大会で入賞した
  • 他校との交流イベントをいくつも企画、実施した

欧米の大学は特に、勉強ができる学生を集めて知能指数が高い単一的なコミュニティーを作るより、なるべく多様なバックグラウンドを持つ学生を集めた方が学生にとっても大学にとってもより良い結果につながると考えています。

前者は単一的な国の縮図、後者は多様な人々が交流する世界の縮図と言えます。世界を舞台に活躍するための学びが多いのは、言うまでもなく後者です。学生の留学を推奨している学校や大学も多いので、チャンスは有効活用すべきです。


自由研究の課題をあえて大きく、世界規模に

欧米式の教育では、自由研究形式の課題が多く出されます。しかも、課題は書き上げれば終わりというわけではなく、研究内容をプレゼンするまでが課題であることも多々あります。グローバル教育を意識している学校で出される課題のテーマは世界規模のデータを調査して、そこから見出せる見解を述べよ、という主旨のものが多いです。以下が例になります。

  • 自国と他2ヶ国の人口の推移と、違いの理由を調査せよ
  • 戦時中に自国の作家が書いた本と他国の作家が書いた本を読み、共通点と相違点を調べよ
  • 温暖化がもたらす数ある環境への影響の中から1種類選び、大陸別に影響の度合いを調査せよ
  • 社会における女性の権利が現在どのような状態にあるか調査せよ

このような課題に繰り返し取り組むことで、自然と、自分が今住む世界と地球全体との接点について考えるきっかけが与えられ、異文化理解や地球的視野が育まれます。また、自分で調べた他国のことを、調べたことがない聞き手にいかにわかりやすく伝えられるか考えることで、自分の発言がどうしたら内輪なものに留まらないか探っていくことができます。

研究のテーマはどれも明確な答えがないものばかりなので、答えを見つけることより、上手く伝えて相手を納得させることの方が重要だと気づきます。これがまさに地球社会で必要なスキルになります。

夏休みの宿題などテーマがある程度自由の利く課題は、上記のようなものに挑戦するよう子供に勧めてみるといいでしょう。また、学校の宿題で出題されるのを待つまでもなく、子供と一緒に図書館やインターネットで調べてみる習慣をつけてみるのもいいでしょう。


世界での価値が高い人

日本の教育から学べることは多いにしても、広い世界で学べることのほんの一部に過ぎません。日本で言う「優等生」になろうがなるまいが、世界からすればそれは「どうでもいい」ことです。

世界が興味を持つのは世界で言う価値の高い人: つまり多様な経験を経て、異文化を理解しようとし、地球的視野を持とうとし、広くコミュニケーションを取ろうとする人物です。これらの素養を持った人物なら、知識は自ずとついてきますよね。

スーパーグローバル大学、スーパーグローバルハイスクールなどの動きから、日本の教育も上記のような人物をより多く輩出できるように変革しようとしていることがわかります。一人一人の学生、一つ一つの家族も教育の目標を日本の頂点ではなく世界の頂点を見据えたものにすれば、学生時代もその後も、より豊かな人生が過ごせるのではないでしょうか。


2-3. 自分で考え、自分から行動するようになるには

最後にグローバル教育から得られるものの中で一番大切なもの:明確な答えがない問題に対し、「自分で考え、自分から行動する」気質を身につけるために家庭でできることをご紹介します。

常に変化し続ける世界の中では、前例がないことをやらずして成功をつかみ取るのは難しくなります。
誰にも言われずに自分で目標への道を開拓していったり、目の前の問題を解決したりする気概と能力は世界社会で重宝されます。
子どもの頃から自分で考え、自分から行動する一連の流れを何度も経験すれば、誰よりも成功に近い人間になれます。

たとえば、子どもに卵焼きの作り方を教える時を例にとりましょう。
「卵焼きはこうやって作るんだよ」と子どもにやり方を教えた方が、卵焼きを作るスキルに関しては早く身につきますが、自分で考える思考力と、アイディアを行動に移す行動力には結びつきにくくなります。

そこで、子どもに自分で考えて行動する習慣を身につけてもらうために違う教え方のスタイルを用います。
普段の生活の中ですぐに始められることなので、子どもに週一回など定期的に、以下の教え方のスタイルを試してみてください。


自分で考えて行動する力を養う教え方のスタイル

① ミッションを与える
たとえば、「おいしい卵焼きを作る」

② ミッションを達成するための材料を渡す
たとえば、インターネットと材料費1000円

③ 期限を与える
たとえば、今日の夕方5:00まで

④ 期限が来たら、目標の達成度合いを教えてあげる
たとえば、「けっこうおいしいけど、甘さが足りないし見栄えが良くないよ」

⑤ どうしたらより良くできるかを子供に聞き、出て来た答えを書き留めておく
たとえば、「どうしたらもっと甘くなると思う?」「次は少しずつ味見しながら作る」

⑥ 後日、前回書き留めた答えをはじめに見せてあげた上で、全く同じミッションを与える。


2つの教え方のスタイル

普通にやり方を教えるのと比べると、回りくどい教え方に感じるかもしれませんが、これは「子どもに得てもらいたいもの」がそもそも違うからです。
下の図をご覧ください。

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Aの「やり方」を教えるスタイルには以下の利点があります:

  • 結果が出るのが早い
  • 「卵焼きを作る」など、特定のことができるようになる

Bの自分で考えて行動する力を養うスタイルには以下の利点があります:

  • 自分で考えたことをやってみる挑戦、失敗、そして改善という一連の流れを経験でき、成功することで大きな自信がつく。
  • どのような目標に対しても応用できる思考力を鍛えられる

Aスタイルは知識を蓄えるのに、Bスタイルは蓄えた知識を応用するのに有効です。
学校だけではなく家庭でも、子どもへの教え方をバランス良く使い分けたいですね。

3. まとめ


子どもの普段の生活や教育にグローバル教育を視野に入れることで、得られるものは以下になります。

① 英語での異文化コミュニケーション能力
② 世界的視野
③ 自分で考え、自分から行動する気質

上記の素養さえあれば、子どもが将来、活躍の場を日本に限定する必要がなくなります。
日本を含む世界のビジネスシーンは世界で活躍できる人材を求め、それに応じて日本の教育機関はグローバル教育の要素を取り入れていきます。
家庭も子ども自身も時代のニーズを察知し、生活や教育のあるべき姿を意識すれば、将来は選ばれる側ではなく、選ぶ側になれるはずです。

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