1-1-2. 組織の価値観を判断軸にした言動の例
2つの構図の違いを明確にするために、例を挙げます。
ある国際コンサルティング企業の価値観の中に、以下の4つが含まれているとしましょう:
- 長期的人材育成
- グローバルな社内ネットワークの活用
- 多様性の尊重
- 協力しあう姿勢
また、以上のことから、この企業は下請け業者を一切使わず、必ず社内の人材のみで業務を完結するというポリシーがあるとします。
同社に中途採用で入社した新米プロジェクトマネージャーのBさん(メンティー)と、その上司のAさん(メンター)の関係が、Aさんの判断軸の所在によっていかに変わってくるのかを見ていきましょう。
Bさんの過ち
Bさんは、クライアントの新社内ITシステム構築というプロジェクトを受け持っています。
困ったことにシステム開発のプランを立てている途中、チーム内の人材ではどうしても技術的に困難な工程が明らかになります。
そこでBさんはインターネットで下請け業者を探し、見込みのありそうな会社を数社選定します。
入社してから一度も仕事が下請けに出されるところを目撃したことがなかったものの、納期のことを考えるとこれから手探りでプロジェクトを進めるより、ノウハウを持った他企業に任せる方が合理的だと判断しました。
後日、ミーティングにてBさんは上司のAさんに外部委託を提案します。Aさんは「下請けに任せるのはよろしくない」と判断し、Bさんにそう伝えます。
しかしこの後、Aさんの判断軸の違いによって両者の関係には2つの未来が待っています。
未来1:上司であるAさんが自身の仕事観を判断軸に「ノー」と言った場合
Aさんが長年同社で勤めてきた経験上、下請けには頼らずにクライアントの要望に100%応えることにプライドを持っているとします。
企業の価値観に沿ってはいますが、もし「外部委託するのはカッコ悪いから」という理由でBさんの提案に「ノー」を突き付けた場合、Bさんは以下のことを思うでしょう:
■納期を守らなければならない。カッコ悪いなどと言っている場合ではない。
■業務委託をしようとする自分の仕事はカッコ悪いのか。
直接的ではないにせよ、自分の仕事の仕方を「カッコ悪い」と言われて気持ちいい人はいません。関係は言うまでもなく悪化するでしょう。
未来2: Aさんが組織の価値観を判断軸に「ノー」と言った場合
Aさんが外部委託をせずにクライアントを満足させる仕事の仕方にプライドを感じているとしても、Aさんはそれを理由にBさんの提案を却下しません。
「ノー」と言うのにはきちんとした組織としての理由があることを、次のように説明するでしょう:
■うちは外部委託を基本的にはしない。取り扱ったことがない案件は、我が社の社員が学ぶ絶好の機会だからだ。
■外部委託を考える前に、社内の人材を検討するべきだ。社内と言うのは、世界各国の他支社も含む。
■グローバルな社内人材ネットワークが我が社の強みだ。それを活用して、協力して課題に挑み解決するのがうちと他社の違いだ。
■人事部に相談すれば、対応できそうな人材をグローバル規模ですぐに探してくれる。相談してみては。
こう説明することで、Bさんは自社において外部委託しないことがなぜ良しとされているのかが客観的に理解できます。
このように個人の価値観を意思決定に介入させないことで、Aさんは企業の価値観をしっかり理解している「相談相手」という印象をBさんに与えます。以後フィードバックセッションは、BさんがAさんに二人きりで相談ができる貴重な場になります。