事業予測ができない中で決断を下さなければならない時、ビジョンはひとつの判断軸となります。
ビジョンがなければ大きなリスクが取れなかったり、ビジョンがあったとしても組織に浸透させることができなければ社内をまとめることが難しい状況に陥ります。
この記事では、ビジョンの重要性をお伝えすると共に、組織に浸透させる方法を3つのステップに分けてお伝えします。
また、具体的にどうすれば良いのかイメージしやすいように、ビジョンを浸透させる取り組みを全社をあげて行っているJALの事例もご紹介します。
事業予測ができない中で決断を下さなければならない時、ビジョンはひとつの判断軸となります。
ビジョンがなければ大きなリスクが取れなかったり、ビジョンがあったとしても組織に浸透させることができなければ社内をまとめることが難しい状況に陥ります。
この記事では、ビジョンの重要性をお伝えすると共に、組織に浸透させる方法を3つのステップに分けてお伝えします。
また、具体的にどうすれば良いのかイメージしやすいように、ビジョンを浸透させる取り組みを全社をあげて行っているJALの事例もご紹介します。
どの会社や部署、チームにも売上や期日といったゴール(What to do)はあるでしょう。
ビジョンは最終的にどのような組織になりたいか(Who to be)を言語化したものです。
なぜ重要なのかというと、ビジョンはゴールを目指す上でどのような行動を取るべきなのかを指し示す判断軸になるからです。
たとえばオンラインショッピングサイトを運営する企業の経営者が会社全体に「利益を上げなさい」と伝えたとします。
会社のビジョンが何であるかによって、このメッセージの意味合いが大きく変わってきます。
以下をご覧ください。
■ ビジョンが「健全な事業活動を通じて新たな価値を提示し続ける」だった場合
この会社は、たとえば、まだ陽が当っていない優れた商品の良さを消費者にわかりやすく伝えることで新たな市場を開拓し、売上を伸ばしていくでしょう。
■ ビジョンが「スピードを持って企業価値の最大化を図る」だった場合
この会社は、たとえば、国内外のITベンチャー企業とその技術と人材を買収していくことで急速に事業拡大をしていくでしょう。
このように、ビジョンは組織が正しいと信じる道の先にある理想を表すことで、難しい決断をする際の判断軸になります。
次に、判断軸がないと困るシチュエーションを通してビジョンの重要性を見ていきましょう。
ここでクイズです。
あなたが1,000人の社員を有する創業20年の建築資材メーカーの経営者であるとします。
現在会社は業界3位のポジションにあり、新技術の開発により業績を伸ばそうと考えているとします。
以下の4つの選択肢のうち、どれを選びますか?
1. 投資額20億円。成功すれば10年後業界のトップに躍り出ることができる見込み。ただし失敗すれば経営が傾き、社員の大規模リストラは不可避。
2. 投資額5億円。成功すれば10年後市場での現在の地位を保つことはできる見込み。失敗しても立て直せる。
3. 投資額1億円。成功したとしても10年後、競合からは技術的に大きく差を付けられる。しかし失敗しても短中期的には大した痛手ではない。
4. なにもしない。
さあどれが正解でしょう。
営利目的の会社であれば、事業拡大が目標であり、現状維持が最低条件でしょう。
①は成功する保証がなく、失敗すれば現状維持すらできなくなってしまいます。
ビジョンがはっきりしていない会社はおそらく、高いリスクを取る動機不足から①は選ばないでしょう。
仮に、最終的に②を選んだとしましょう。以下の2つの未来のどちらかが待っています。
A. 開発が成功し、市場で現在の地位を保つ未来
B. 開発が失敗し、大きな損失から立て直そうと躍起になる未来
つまり、いつまで経っても業界のトップに立つことはできないのです。
誰かが背中を押してくれさえすれば①のような大きなリスクも取れそうですよね?
しかし先のことは誰にもわかりません。
外部のコンサルティング会社に背中を押してもらうことはできます。
ただし、ビジョンのない会社の場合、この行為は結局「決められないから誰かに決めてもらう」権利と「失敗したら、一部コンサルティング会社のせいにできる」という安心感を買っているだけです。
このような会社が業界のトップに立つことができるでしょうか?
コンサルティング会社の力を借りるにしても、まずは方針が決まってから、投資の成功確率をいかに高めるか、という相談をした方が建設的です。
しかし方針を決めるには社内をまとめなければなりません。
巨額の資金を投資するのが正解か不正解かわからなく、投資をしないことが正解か不正解かもわからないとなると、社内に対する説得材料を十分に集めるまで身動きが取れなくなります。
そうこうしているうちに投資のタイミングが先送りされ(競合がどんどん投資を始めていくため)、投資の価値は徐々に下がって行きます。
先ほどのクイズをもう一度出題します。
今回はあなたの会社にビジョンがあり、社内にも十分に浸透しているとします。
会社のビジョンは以下の通りです。
ビジョン:「世界中の建物に使用され、世界中の人たちに愛される、世界一安心安全な建築資材を追求する」
以下のうち、どの選択肢が正解に見えますか?
1. 投資額20億円。成功すれば10年後業界のトップに躍り出ることができる見込みだが、失敗すれば経営が傾き、社員の大規模リストラは不可避。
2. 投資額5億円。成功すれば10年後市場での現在の地位を保つことはできる見込み。失敗しても立て直せる。
3. 投資額1億円。成功したとしても10年後、競合からは技術的に大きく差を付けられる。しかし失敗しても短中期的には大した痛手ではない。
4. なにもしない。
ビジョンがあると、途端に①が有力な選択肢になります。
社内の意見をまとめるのにも、ビジョンがない組織ほど時間はかからないでしょう。
もう一度だけ同じクイズです。
もしあなたの会社のビジョンが以下だったとしたら、今度はどれが正解に見えますか?
ビジョン:「社会と社員の幸せを生涯考える」
おそらく、今度は②が正解に見えたのではないでしょうか。
このように、ビジョンは組織としての正解を指し示す重要な判断軸の1つになります。
さらに、ビジョンが組織内に浸透していれば、自然と内部をまとめやすくなります。
なぜなら、会社のビジョンに則り、最大限努力することが共通認識となりやすいからです。
経営層のみならず、社員全員がビジョンを判断軸にできるようになれば、ひとりひとりが細かい指示を出されるまでもなく、適切に、迅速に動けるようになります。
これは特に世界各国に支社を持つグローバル企業にとって非常に重要です。
各海外拠点の現地の状況、文化、言語、人間関係などに関して、日本本社では把握・対応しきれないことが多すぎるからです。
日本本社の経営層と海外拠点の社員が同じビジョンを共有していれば、現地の人材に判断を任せることができます。
身近なたとえ
たとえとして、夏場に小規模な会社で20名の社員がオフィスの一室で仕事をしている場面を思い浮かべてください。
全社員が働いている環境を実際に目視できるので、暑がっていたり寒がっていたりする社員のために都度、エアコンの温度を適切に設定できます。
エアコンは複数あったとしても、温度調整は中央管理で事足ります。
しかし社員が多くて、全部署がひとつの部屋に収まりきらない場合はどうでしょう。
働いている環境が部署ごとに違うため、一律28℃の温度設定では快適に感じない部署も出てきます。
そこで、各部署個別にエアコンの温度設定をする権限を与えるとします。
しかしそうすると、特に窓の近くの部署は暑いので温度を20℃といったように低く設定しすぎてしまい、電気の使用量が上がってしまいます。
会社が環境保全に貢献する方針がある場合は、電気の消費を最小限に抑えなければなりません。
現場に温度設定を委任する前に、
「夏場にエアコンを使用するのは仕方がありませんが、節電にご協力ください。我々の製品は環境に配慮した点がお客様に愛されています。そのような会社がオフィスで電気を使いすぎるわけにはいきません。」
などといった方針を社内で共有したとしましょう。
すると、28℃から大きく下回る温度設定をする部署は減り、「代わりに扇風機を何台か置こう」など、方針に則った判断をしてくれるでしょう。
この社内空調のたとえと同じで、ビジョンはあるだけでは意味がなく、社内で共有し、浸透させることが重要です。
ビジョンを打ち出すのは大切な第一歩で、その次にビジョンを組織内に浸透させると現場を信頼する形で任せられるようになると考えてください。
では次にビジョンを組織内に浸透させる方法を見て行きましょう。
組織のトップの頭の中にあるビジョンを普及・浸透させていく第一歩として、文字に起こすことが大事です。
実はこれは、簡単なことではありません。
あなた自身が、定年を迎える時にどう在りたいかを一文にまとめることはできますか?
ビジョンを文字に起こすということは、組織レベルで同じ質問に答えることと同義です。
多くの企業は創設された瞬間にビジョンがあるわけではなく、時を経るにつれて企業の方向性が見えてきて、考えがまとまっていき、ビジョンが徐々に形成されていきます。
自身の組織の理想のあり方を、覚えやすい短い文に収めるのは簡単なことではありません。
漠然としたビジョンを明文化するには、組織のトップ自身がビジョンを明確にする「練習」をしていかなければなりません。
組織のトップがビジョンを以下の段階を経て明文化していくところを、以下のシチュエーションを通して見て行きましょう。
キャラクターライセンシングビジネスの会社を東京で立ち上げたNさんという人がいるとします。
自身とデザイナー2人の3名体制で始まった会社は、Nさんの友人の会社からデザインの依頼を受注する傍ら、地道な営業活動をすることで、少しずつキャラクタービジネスを拡大していきます。
今はデザイン受注が収益のほとんどを占めていますが、行く行くは自社キャラクターのライセンシングをコアビジネスにしたいとNさんは考えています。
この時点でNさんの頭の中にある「組織のあるべき姿」は以下の通りです。
かなり漠然としていて、一言で言い表せないことがわかります。
この段階では、まだビジョンとして打ち出すことはできません。
Nさんはキャラクタービジネスを本格化していくために、「キャラクター&ブランドライセンシング展」という展示会に出展し、自社キャラクターの認知度を上げることにしました。
当日、展示会では衣服や雑貨へのキャラクターの使用例を展示したり、資料を手渡したり、その場でキャラクター使用を検討している企業の代表者と商談をしました。
その後、成約した企業と話をすると、複数の担当者から「キャラクターもかわいいですが、キャラクターのセリフやコピーが特にオシャレで魅力的ですね。」というコメントが多く寄せられました。
また、雑貨よりもアパレルや広告への使用の方がキャラクターの相性が良く、10代から30代の消費者に受けが良さそうだということが判明しました。
デザイン: Ippei Justin Naniwa
http://www.kinokkiho.com/
展示会に出展し事業を拡大したことにより「組織が社会にどういった貢献ができるのか」がはっきりしてきました。
現段階でNさんの頭の中にある「組織のあるべき姿」は以下の通りです。
3年が経ち、Nさんの会社は当初の従業員数3名から、アシスタントデザイナー、営業職と事務員が数名新たに加わり、12名になりました。
関西への出張が多いため、大阪に支社を作るべきか検討し始めました。
6年目になると従業員数は30名に膨れ上がり、香港に支社を置くべきか議論されるようになりました。
決定権を持つ者がNさん一人では仕事がとても追いつかない状況になりました。
判断を任せられる人材は1,2名いるものの、このペースで成長を続ければそういった信頼に足る人材が不足する、とNさんは思い始めました。
そこで毎日直接顔を合わさない社員とも意識や考え方を共有できるように、自社のビジョンとはなにかを考え始めます。
一人で考えていてもまとまらないため、会議を何回か設け、デザイナーや営業と以下のことを議論しました。
■ 自社のキャラクターやコピーに一貫したテーマはあるか?
■ 自社のキャラクターやコピーはどのように社会に貢献しているのか?
■ この会社はどこへ向かって行くのか?
ディスカッションの結果、Nさんの会社のビジョンのたたき台が出来上がりました。
これまで作ってきたキャラクターとコピーは、日常的な風景や出来事をクスッと笑えるデザインに変えることを一貫して行ってきました。
洋服などの「日常的に目にするモノ」にキャラクターとコピーを加えることで「笑顔を生み出すモノに」変え、法人顧客の商品に付加価値を与える形で社会に貢献してきました。
Nさんの会社は、笑いには大きな価値があると信じています。
その結果、「日常を『一笑』に変える」がビジョンであり、普段なんとも思わないものに対しての考え方を変え、面白いと思ってもらえるように創意工夫を凝らすのが自分たちの仕事だと考えていることに、長い年月の末に気付きました。
組織のトップが頭の中のビジョンを見事文に起こしたとしても、それが他人に伝わる文であるとは限りません。
外部の利害関係者との対話は、「組織に何を期待するか」を教えてくれます。
内部の利害関係者との対話は「組織がどうありたいか」を教えてくれます。
内外の人にビジョンを披露し、ディスカッションをし、文言に対する意見をもらうなどして、ビジョンは徐々に形作られていきます。
ビジョンを明文化したら、組織全体への浸透に着手します。
ビジョンや組織の考え方の詳細を冊子にまとめて配布するのは大事ですが、ただそれだけでは効果はありません。
判断に困った時に立ちかえる初心となるくらいにビジョンを信頼してもらえなければなりません。
人事異動があって、突然やってきた上司をその日から信頼できるでしょうか?
仕事や飲み会を通じて触れ合っていく中で、上司の人となりやマネジメントスタイルを理解していき、上司と部下双方が信頼を築いていきます。
ビジョンに関しても同じことで、ある日突然トップダウン式にビジョンが下りて来たとしても、いきなりそれを信頼して、体現しろと言うのは無理な話です。
上司と触れ合うのと同じように、ビジョンと触れ合い、真に理解を深める場が必要です。
ビジョンを判断軸にする練習の場がどのようなものであるか具体的にイメージできるように、JALを例に取ります。
今回は日本航空株式会社広報部のご担当者様にお話を伺いました。
JALは社内コミュニケーションを精力的に行っています。
研修提供に留まらず、社員と社長、社員と役員、社員同士、というコミュニケーションの場を継続的に設けています。
意見交換、チームでの問題解決やお題に則したディスカッションなど、様々な形式を取るJALの取り組みが、なぜビジョンを判断軸にする練習の場になり、結果的にビジョン浸透につながるかを見て行きましょう。
JALでは以下のように社内コミュニケーションが行われています。
社長と社員間のコミュニケーション
社長は出来る限り、日本全国を含む全世界のJAL支店を訪れ、直接社員とコミュニケーションを取っています。
社員と社長が直接話をすることで、トップと現場の考えが共有され、お互いの考えにズレがないか考えるきっかけが得られます。
役員と社員間のコミュニケーション
JALの役員は会社方針などを自らの言葉で配下社員に説明するようにしています。
また、各部門の役員は担当部門のフロアにデスクを置き、どんな細かいことでもすぐに社員が役員とコミュニケーションが取れるようになっています。
経営と現場が直接対話をすることで、ビジョンは職種や場所を選ばず体現するものなのだと理解できます。
社員間のコミュニケーション
部門を越えた集合教育の場が頻繁に実施され、多属性の社員(JALにおいては運航、整備、客室、空港、貨物に携わる社員同士)が直接話し合います。
JALの場合は「JALフィロソフィー」という行動指針を年4回のフィロソフィー教育の場で浸透させる他、1-2年に1回ブランド教育をし、さらに安全教育を継続的に行っています。
フィロソフィー教育の際には必ず、動画にて社長のメッセージが伝えられます。
また、全国各地でフィロソフィー勉強会が自発的に実施され、役員も頻繁に参加します。
そういった場では、分野や業務内容が異なる者通しの共通の判断軸はビジョンなので、必然的にビジョンを基に話し合いがなされます。
また、JALでは各部門の社員が社内コミュニケーションの場のファシリテーターを行っています。
ファシリテーターを勤める社員はJALフィロソフィーを真に理解しているからこそ、ディスカッションが正しい方向に向かっているか各々で判断ができます。
このような「理念の宣教師」がビジョンを広める大きな力になってくれます。
部門を越えたコミュニケーションを円滑化するJALの体制
JALには社員同士と役員・社員間のコミュニケーションは直接的に行えるような体制が取られています。
では、役員同士のコミュニケーションはどうなっているのでしょう?
現在JALでは、社長を含む役員は個室を持ちません。
役員室は大部屋になっていて、デスクは以下のように配置されています。
役員室の中央にはミーティングデスクが設置され、検討事項があれば役員同士の議論がすぐにできるようになっています。
通常、部門長同士の会議を設定するだけでも数日かかってしまうものですが、JALではこの役員室の体制により部門同士がスピードを持って連携できるようになっています。
また、役員が顔を合わせ、直接話し合う機会が多いため、経営陣がビジョンを自然に共有できる、という効果にもつながります。
以上のビジョン浸透の取り組みを通して、現在では経営層と社員の間のコミュニケーションの重要性を社内全員が認識するに至っています。
*参考文献
「ステークホルダー・コミュニケーション」
https://www.jal.com/ja/csr/report/pdf/index_2014_13.pdf
(4/21/15’ アクセス)
「社員とのかかわり/お取引先さまとのかかわり」
https://www.jal.com/ja/corporate/csr/communication.html
(4/21/15’ アクセス)
JAL規模の企業が全社員にビジョンを完全に落とし込むのは容易な話ではありません。
しかし、実は社員全員ではなく、社員の51%がビジョンを真に理解している状態を目指せばいいのです。
なぜなら、社員の過半数がビジョンを心の底から理解し、信頼しているのなら、そのビジョンはすでに企業文化です。
人事部などがさらに働きかけなくても、社員それぞれがビジョンを体現し、それを目の当たりにする同僚がビジョンを理解していきます。
練習の場さえ定期的に設けてあれば、あとはビジョンの浸透率が自然と上がって行くのを待つだけです。
では社内で社員同士のコミュニケーションの場を作るとして、どのような話し合いをさせれば良いのでしょう?
結論や問題解決に至るのではなく、ビジョンを判断軸にディスカッションをするのが目的なのですから、前述の建築資材メーカーの投資問題のような「答えのない議論」をさせると良いでしょう。
たとえば、以下のような議題がうってつけです。
議題A: 次の新商品・新サービスはどんなもの?
議題B: これから競合他社とどう差別化していく?
議題C: うちの会社を擬人化したとしたら、どんな人?
議題D: うちの会社が社会貢献活動を新たにするとしたら、それはどのような活動?
社内コミュニケーションに取り組む企業の間で、ディスカッションの議題として最近多くなってきているのが、トップからのメッセージ動画です。
たとえば年2回(多い企業は月1回)、グローバルの全社員がCEOなどの役員からのメッセージ動画を視聴し、それをディスカッションの議題にしています。
4名以上を1グループとしてディスカッションをさせますが、毎回違うメンバーに当たるような工夫が大事です。
中には海外を含む複数拠点をビデオ会議でつなぎ、多国間のディスカッションをさせている企業もあります。
国や文化や所属は違えど、同じビジョンの下で仕事をしていることが身を持ってわかるので大変効果的です。
もちろん、社内ディスカッション参加は全社員義務化されています。
このようなビジョンについて考える場が定期的に巡ってくるということは、社員全員がビジョンについて考えることが「普通」になるということです。
全社員を巻き込む取り組みを運用するのは簡単なことではありませんが、ビジョンの浸透を強く促します。
ビジョンについて社員が考える定期的な機会と環境を作ったら、最後に、ビジョンに則った上で結果を出した社員の働きに報いる仕組みの構築をします。
これは、通常の成果評価とは別にする必要がある可能性があります。
営利・非営利であるに関わらず、企業は存続するために収入がなければなりません。
しかし組織のビジョンに則った取り組みは、お金儲けの観点からは必ずしも最も効率的であるとは限りません。
多くの場合、ビジョンに則った取り組みは長期の顧客獲得や保持に貢献しますが、売り上げや利益として短期的に結果が出ることは稀です。
ビジョンに沿ってものごとを考える人材も大事ですが、短期的に収入をもたらす働きをする人材も同様に大事です。ビジョンばかり追いかけて組織が立ち行かなくなってしまっては本末転倒です。
両方のバランスを取るために、以下のように評価の仕方を分けると良いでしょう。
ビジョンを体現する社員は評価したいものの、組織の直接的な利益に結びつかなければ報酬に大きなコストをかけられません。
そこで承認という、コストがかからない報酬を用意します。
さらにビジョンを体現し、なおかつ直接的な利益をもたらす社員には承認と金銭の両面で報いる仕組みがあるのがベストです。
そうすれば社員がビジョン体現と直接的な利益の両方を追求する動機付けができます。
たとえばある企業では、社会貢献活動の企画案コンテストを社内で毎年行っています。
多数の応募の中から選ばれた優勝者、つまり「ビジョンを体現した上で利益へ貢献する」企画者には、企画の実行を条件に1年間もの有給休暇が副賞として与えられます。
では前述の1,000人の社員を有する創業20年の建築資材メーカーにおいて、どのような功績に対してどのような評価の仕方が適切か考えていきましょう。
以下のビジョンを持つ企業において、左のA, B, Cの功績と右のa,b,cのうち最も適切な評価方法を線で結びましょう。
答えは記事の最後にあります。
ビジョン:「世界中の建物に使用され、世界中の人たちに愛される、世界一安心安全な建築資材を追求する」
昇給などの金銭的報酬にも言えることですが、社内報や賞などで承認という形の報酬を与える際には、きちんと「なぜ賞賛されたのか」を明確に言語化する必要があります。
たとえば上の図の功績Cを褒めたたえる際には、全社員が集う場や読める媒体で以下のように話すと良いでしょう。
「今期の社長賞は○○さんのチームの案件に授与致します。大小様々の、数ある輝かしい功績の中からこの案件が選ばれた理由は、商談の大きさとしては中口案件ではあるものの、価格競争で勝つのではなく、あえてより困難な、お客様への品質の重要性のコミュニケーションを通し、契約に至ったからです。これによりお客様は地震と老朽に強い、人々に末永く利用され愛される建築物を建てることができます。我が社の社会貢献に寄与すると共に、安心安全な新資材の普及を助成する大事な案件です。○○さんのチームの働きに、会社を代表して感謝致します。おめでとうございます。」
それではビジョンの重要性とビジョンを浸透させる方法をおさらいしましょう。
ビジョンが重要な理由は:
先が予測できない中で、難しい決断を下さなければならない時にビジョンは判断軸の役割を果たしてくれる。
ビジョンがなければ、大きなリスクが取れなかったり、社内をまとめることができなかったりする。
ビジョンを浸透させるには:
ステップ1. 時間をかけ、社内外の人との話し合いを通しビジョンを明確化していき、明文化する
ステップ2. 社内ディスカッションなどの、ビジョンを判断軸にする練習ができる機会を継続的に定期開催する
ステップ3: 社内報や社長賞などの、ビジョンを体現する社員の働きに報い、労う仕組みを用意する
社員一人ひとりが、現在取り組んでいる仕事に関して、社内の第一人者です。
仕事を一番理解している人に物事の判断を委ねたいものです。
しかし、社員ひとりひとりがビジョンという判断軸がなければ、時に間違いを犯すことも、間違いを恐れて行動しないこともあります。
現在勤めている組織においてビジョンが浸透していない、もしくはビジョンがないとしたら、今から少しずつ動き始めてはいかがでしょう。
ビジョンの体現に報いる仕組みの例 答え
無料体験レッスンは、教室・オンラインをご用意。
一部のプログラムは、無料オンライン体験または受講相談のみとなる場合がございます。