1. 3種の他流試合の効果とブーストされる責任感


他流試合には大きく分けて以下の3つの種類があります。

  1. 他部門間
    例: マーケティング部門の社員と商品開発部門の社員が「グローバル人材の定義」について議論する
  2. 同業種間
    例: 映画配給会社Aと映画配給会社Bがそれぞれ代表者をたて、「今後10年の映画業界」について議論する
  3. 異業種間
    例: アパレル企業の社員と大手銀行の行員が問題解決型研修で協力する

どの種類においても、他流試合に参加する社員は所属する団体を代表して、他分野の人々と渡り合うことになります。
この「団体を代表して」という部分が他流試合でしか得られない恩恵の一つにつながります。

何千人もの、多国籍の生徒を指導してきた上での私見になりますが、普段はグループの中で埋もれてしまうような消極的な人でも、グループを代表しなければならない状況に置かれると、途端に責任感がブーストされ、しっかり役目を果たそうとします。
結果的に、普段の環境では実現できない高パフォーマンスが期待できます。

1-1. 責任感がブーストされる現象の

たとえば分野が異なる研究者を集め、「スーパーコンピュータ技術の応用範囲」について40分間、英語で議論してもらった時のことを例に取ります。

生物理工学、機械学習、そして環境経済学の研究者がそれぞれの考えを発表し、議論しました。
生物理工学の分野からは、膨大な医療データに地球のどこからでもアクセスできるようになれば発展途上国の患者も的確な治療を受けやすくなる。
機会学習の分野からは、スーパーコンピュータの力を借りて画像や動画の検索精度が現在進行形で向上している、など様々な意見が飛び交いました。

議論の最中、三者に共通した言動は以下の通りです。

  • 専門が異なることを予め知っていたからか、自分の分野で用いる専門用語をなるべく避けていた
  • 自分の分野における現状や課題などの背景から丁寧に説明した

結果的に三者とも非常にわかりやすい発表をし、その後の議論を大変有意義に感じたと述べていました。

自分たちが代表する分野に関して誤解があってはいけないとの思いからか、より責任感を持って「伝える」ことに集中していました。


1-2. 各種類の他流試合の効果

3つの種類の他流試合からはそれぞれ違った効果が見込めます。
また、後に紹介する種類ほど参加者が効果的に立ち回る難易度が高いことを留意しておいてください。

それではそれぞれ詳しく見てみましょう。


1-2-1. 他部門間の他流試合から得られるもの

会議などを通して部署間で共有される情報は主に数字と進捗です。
お互いが何を思って仕事をしているかなど、普通に仕事をしていてはわからないことはたくさんあります。
他部門間の他流試合から得られるものは普段の情報共有からは得難い、自社に関するより深い理解です。

たとえば「うちの会社は何のために存在しているのか」といった議題でディスカッションをしてみると、たとえ同じ会社の社員でも部署や携わっている仕事によって考えが大きく異なることがわかります。

どうしても偏った解釈で報道されるニュースを正確に知るためには、複数の新聞を読み複数の観点を把握することが基本であるように、会社の状態や目指している方向などを正確に知るためには、様々な部署の様々な社員の意見に触れることが大事です。

他部門間の他流試合はすればするほど、参加者の深い自社理解につながり、会社の課題や目標が他人事ではなくなっていきます


1-2-2. 同業種間の他流試合から得られるもの

セミナーや見本市などに参加すると、同業他社からの来場者に出くわすことも、直接会話を交わすことも珍しくありません。
でもお互いさらに踏み込んでワークショップなどの場で一緒に議論したり問題解決に取り組んだりすれば、結果的に自社の強みに関する自信が得られます。

当たり前のことですが、何年も同じ学校に通っていたとしても、同級生と自分は全くの別人ですよね。
同様に、同業種と言えどどの会社も生まれ方、考え方、そしてこれまでの歴史も異なります。
どれも今この瞬間まで生き残っている企業ですから、それぞれの会社に必ず、他社には真似できない強みや良さがあります。

でも周りを見渡す機会がなければ、自分たちが当たり前に行っている業務や発想が実は強みであることに気づくことができません。

同業種間の他流試合は、同業他社の代表者たちの中で自身が立ち回ってみることで、同業他社にはない自社の強みを再認識し、大きな自信をつけるきっかけになります


1-2-3. 異業種間の他流試合から得られるもの

同一部署内、また同一業種内でもある程度、そこで働く人たちは同じ文脈の中で仕事をしています。
知識や意識を共有しているので、何か新しいことに一緒に取り組むことになった際には、皆まで説明しなくても阿吽の呼吸で理解が一致することがあります。
しかし他社の、しかも異業種の人間と協働するとなるとそうはいきません。

自分の普段の仕事のアプローチを仕事に対する考え方に一旦抽象化してから、異業種の相手にわかるように伝えるという複雑な思考を行う必要があります。
つまり、異業種間の他流試合から得られるものは、普段使っている有効なスキルや、普段行っている有効な業務フローなどを普遍的な理論に昇華させる思考力と、さらにどんな相手にも応用・実践できるように工夫して伝える力です。

これら二つの能力は特にリーダーに絶対必要です。
いくら知見を溜めていってもそれを頭の中から取り出して他者に共有することができなければ、その人物がいなくなると同時に知見も消滅します。
知見を異業種の相手にわかりやすく伝える練習と成功体験を積み重ねていけば、分野や業種に捕らわれず影響を及ぼすリーダーのできあがりです。

異業種間の他流試合を通して醸成される能力は、いわば「生き様を人に伝える」力です

1-3. 段階的な難易度アップのススメ

ひとつ気をつけなくてはならないのが、参加者が代表する組織の規模が大きくなるにつれて、参加者が最高のパフォーマンスをするために必要な「自信」も大きいものになっていくということです。

自社内で他の部門と他流試合をしたことがない人がいきなり異業種間の他流試合に挑んだとしましょう。

「あなたの会社としてはどういった考えをお持ちですか」などと聞かれた際に、自分の部署というフィルターを通してしか会社のことを考えたことがないので、自分の意見が「会社として」の見解であるかと問われると100%の自信がありません。
そのため、「・・・だと思います」「・・・かもしれませんね」などと濁した言い方しかできなくなります。
そうなると、曖昧なことばかり言う人だと思われ、他者に与えられるインパクトは限定的になります。
結果的に、自分の組織の外でも自分の能力は通用するという実感と自信は得られないでしょう。

組織を代表させる人材にあまり大きく背伸びをさせても成果や自信にはつながりません。
他流試合は自己理解と自己表現を通して自信と影響力を養う場
です。
参加させる人材のために段階的に難易度を上げ、「少しだけ背伸びさせる」程度の環境を整えてあげるのが良いでしょう。

2. 効果的な他流試合の設定方法

普段話したり協働することのない相手と一緒に何かに取り組む、というだけでも成長に繋がるので、参加者が意欲的に取り組めるような内容である限り、形式は(議論や問題解決などのアクティビティーを行う)何であっても大丈夫です。

しかしせっかくそんな人たちが集まるのですから、なるべく有意義で実りある会にしたいですね。
そのために、他流試合を設定する際には以下のことを行うと良いでしょう。

2-1. 開始前の意識合わせ

開始前の段階で参加者全員に以下の2点を留意してもらうことでより高い効果が期待できます。

  1. セッションの主旨とゴール
  2. セッション参加者に期待すること

例を交えて、それぞれを詳しく解説します。


2-1-1. セッションの主旨とゴール

働いている組織が違うと、たとえ同じ「会議」という会であったとしてもその主旨やゴールは大きく異なることがあります。

たとえばある企業では多くの場合会議中に意見はまとまらず、各参加者に宿題として意見をメールするのが慣習であったり、またある企業では話し合う内容は事前に全参加者に共有し、実際の会議中は詳細についての質疑応答が主であったり。
異なる組織は異文化同士なので、「雇用の在り方を議論します」などとだけ伝えるのではなく、「雇用の在り方に関する参加者ひとりひとりの観点を自社事例を交えて共有、議論します」などとし、予め主旨をより明確にしておきましょう。

また、「セッションのアウトプットはなにか」といった形で、ゴールを明確にするとなお良いでしょう。
たとえば「ゴール:他社事例や方針から自社に応用できるアイディアを持ち帰る」などと明確にすると、参加者のモチベーションも上がります。
セッション中はそのゴールを目指して積極参加してくれることでしょう。


2-1-2. セッション参加者に期待すること

確実に有益な会にするためには、多分野の参加者同士がいかに積極的に働きかけ合わせるかがカギです。
発言量やインタラクションが多いほど、学びも多くなります。

とはいえ、「初対面の相手といきなり熱く語り合おうとすると浮いてしまうのではないか」という不安を感じる参加者も中にはいるでしょう。
そこで、セッション中参加者に期待すること、つまり積極参加が期待されることをルールという形で明確にすることで、「積極参加しない方が浮いてしまう」という環境を作り出します。

たとえば、話を振られて発言する時のルールを以下のように設定すると良いでしょう。

話を振られたら必ずすること:

  1. 意見・考えの主旨を述べる
  2. 詳細・理由を述べる
  3. 他の参加者に関連する質問を振る

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このようなルールはセッションの冒頭で参加者に実際に何回かやってもらう必要があります。
一度伝えただけでは時間が経つにつれ忘れられてしまい、後で何回も注意することになってしまいからです。
参加者全員にクセ付けするように何回か練習させ、期待されていることをはっきりイメージできるようにしておきましょう。

たとえこの意識合わせに10分~20分時間を割いたとしても、後々必ず活きてきます。
アイスブレイク・アクティビティーと絡めるなどして、簡単な話題で、参加者にルールに慣れてもらいましょう。

2-2. ファシリテーション

他流試合のファシリテーターに求められることは以下の二つです。

  1. 中立な立場で議論やアクティビティーの進行に勤める
  2. 時に双方共通の「敵」になる

こちらも例を交えて詳しく解説します。


2-2-1. 中立な立場で議論やアクティビティーの進行に勤める

参加者全員にとって有益な会にするためには、全員に発言や参加の機会がなければなりません。
一部の参加者同士の議論が白熱して、その他の人には発言の機会がなかなか回ってこない、など、よくあることです。
そのような時にそれまでの議論をサッとまとめて発言量の少ない参加者に話を振るなどのファシリテーションができる人間が必要です。
ファシリテーションをするに当たって求められることは以下の通りです。

  • 議論の内容を理解し、さらに一歩、二歩先まで議論の行く末を予期する
  • ヒエラルキーなど目標達成には無関係なことより、議論や問題解決の目標達成を軸にものごとを考え、アクションをすぐに実行すること

他流試合は普段の仕事の文脈から完全に離れた場(であるべき)です。
参加者同士の関係性が何であろうと、ファシリテーターが誰であろうと、所属も階級もない一人のビジネスパーソンとして今ある力を最大限振るってもらえれば、本人にとっても、他の参加者にとっても刺激になります。


2-2-2. 時に双方共通の「敵」になる

それまでいがみ合っていた組織同士が同盟を組もうと思う時はどんな時でしょう?
それは、双方共通のより強大な脅威が現れた時です。

他流試合において最も刺激的なアクティビティーが、多分野の者同士で協力して問題を解決することです。
そのような状況を作り出すには、ファシリテーターが双方共通の「敵」になるか、そのような「敵」を用意するのが効果的です。

双方の議論がまとまったところに、ファシリテーターからその結論に挑戦するような質問をあえて投げかけるのもひとつの手です。
「雇用の在り方について」という議題が「今後は正社員雇用や契約社員雇用という形態ではなく、プロジェクト単位の雇用が広まっていく」という共通見解でまとまったとします。
そこにファシリテーターから、

「みなさんが仰るようにそうなっていく可能性が高いと思われます。しかしそれには多くの個人が高いスキルと自立性を持たなければならないかと思います。海外ではすでにプロジェクト単位の雇用は広まりつつあるようですが、日本において労働者の『自立性』という部分ははたして十分なのでしょうか?」

などと、一旦まとまった議論に対して挑戦します。

こうすることにより、その瞬間、共通の課題を解決しようという目的が生まれます。
共通の目的が明確になれば、協働作業も捗るはずです。

 

* * *

いかがでしたか?
他流試合は、普段接点がない者同士が異なる観点やアプローチを披露し合い、吸収し合う、ビジネスパーソンにとって非常に刺激的な学びの場です。
モチベーションにもプラスに働きますし、リーダーとしての自覚を促したり強めたりもします。

是非あなたの会社でも実施を検討してみてください。

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