◆今回取材に協力してくださった海外赴任経験者◆

じゅんこさん(仮名)
赴任国:イギリス(ロンドン)
期間 :2001年9月~2009年3月
家族 :夫、息子(2003年誕生)

1.現地を訪れて事前にリサーチ

もともと英語が好きで日常会話程度は話すことができたじゅんこさん。
旦那さんにロンドン赴任の話が来た時も、一緒に行くことに抵抗はなかったそうです。

「英語が少し話せたので、最初から言葉の壁をクリアできていたのは大きいですね。
それに育児環境や学校のことを考えなくてはいけない子どももまだいなかったので、あまり迷いはありませんでした。」

ロンドンに移住を決め準備をはじめたじゅんこさんは、まず旦那さんと一緒に現地を訪れたといいます。
ロンドンの雰囲気を肌で感じながら実際の生活をシミュレートし、生活するにあたって必要なものをしっかり確認。
そのおかげで、移住するまでのわずかな期間でも準備を万端にすることができました。

「いちばん初めにしっかり必要なこと・ものを見極められたので、準備期間に不安などはありませんでした。
実際に現地にも行って、住む家を決めたりもしたので、“海外生活”に過度な期待をすることもなく、移住後の生活に大きなギャップを感じたりもしなかったです」。


海外赴任でいちばん気になるのはやはり言葉の壁。
移住前から英語が話せたのでじゅんこさんは赴任中にコミュニケーションで困ることはありませんでしたが、「英語が苦手な方でも大丈夫ですよ」とにっこり。

実はロンドンには25000人ほど日本人が住んでいます。
さらに日本人の居住区は大体決まっているので、英語に自信がない人でも意外と生活できるのだそう。
「私はロンドンで英会話学校に通いました。そうやって現地で少しずつ言葉を覚えていく人も多いですよ」。


また、ロンドンには日本人が集まるコミュニティが少なくありません。
じゅんこさんと同じように赴任する旦那さんについてきた奥様もたくさんいたため、積極的にコミュニティに参加して情報交換や趣味を共有して交友関係を深めていけるそうです。

「自分と似た境遇の人も多く、先輩たちからアドバイスを受けることもできて心強かったです。
それに、コミュニティはほんとうにたくさんあり、自分に合わないと思ったらすぐ別のコミュニティに移ることができます。
人間関係がうまくいかないと色々悩んだりしてしまうので、無理して一つのところに居続けるよりも、自分に合ったコミュニティを探すのがポイントですね」。

2. 文化の違いで思いもよらないトラブルも

「私もそうでしたが日本人が抱く外国人のイメージって、会っていきなりハグするとか、すごくフレンドリーなイメージですよね。
でも、イギリスではそういったことはありませんでしたよ。人との接し方は日本人の感覚に近いと思います」。

準備を入念にして移住したじゅんこさんですが、それでも日本で生活している時に抱いていたイギリスのイメージと、現地の文化とのギャップを感じることや、思いもよらないことが起きました。

◆イギリスは階級社会

イギリスは上流階級、中流階級、労働者階級と明確に階級が分かれている階級社会。
所属する階級によって、居心地がいい場所も変わってきてしまいます。
ロンドンは多くの外国人が住んでいる場所ですが、やはり差別にあうこともあったといいます。

「露骨な嫌がらせをされることはありませんよ。
でも、言葉の端から差別的ななにかを感じたり、“なぜここに日本人が?”というような視線を感じることも時折ありました」。

イギリスに赴任することが決まったら、身の丈に合わないオシャレな場所に住むより、自分たちの生活にあった場所に住む方が、無用なトラブルも避けられ、心穏やかに過ごせるようです。


◆医療について

日本人は驚くかもしれませんが、公共医療機関は全てタダ!
慣れない土地で生活をすると体調に支障をきたす人も多いので、遠慮なく医療施設を活用しましょう。

しかし、無料なのは日本人だけではありません。
現地の人はもちろん、各国から赴任してきた人やその家族など多くの人が利用します。
すると、自然と待合室は長蛇の列に……。長い時は半日以上待たされてしまうこともあるそうです。

さらに、無料ということもあってかあまり質も良くないとじゅんこさんはいいます。

もし緊急を要する場合や、質の高い医療を受けなければならない場合はプライベートクリニック(私立病院)へ行った方が良いようです。

「もちろん医療費はかかってしまいますし、わりと高いのですが、海外生活で健康であることはとても大切だと思います。
状況に応じて使い分けるのがおすすめです」。

ちなみに、移住前に日本で受けなくてはいけない予防接種は、アジア圏の国に赴任するより種類は少なくてすむそうです。


◆家やインテリアを頻繁に修理

古いものを大切にするイギリスでは、数十年前や百年前から使われているインテリアが備え付けられていることも。
アンティークな家具と生活できるのはオシャレに感じますが、年季が入っている分、劣化や故障も多いのだとか。
そのため、月に何度も修理屋を呼ばなくてはいけない時もあったといいます。

「気をつけなくてはいけないのは、修理屋さんを呼んでもすぐに来てくれないケースが多いこと。
最初はそれを知らず修理屋に任せていたため、お風呂に入れない日が数日続いたなんてことも……。
慣れてからはかなり修理屋を急かすようになりました」。

一日のうち修理や家事に時間がたくさん取られる生活が続きましたが、コンシェルジュ付きのサービスアパートに引っ越してみたら生活が一変。
じゅんこさんも利用したことがあるそうですが、もし何かが壊れてしまったり、トラブルが起きてもコンシェルジュがすぐに対応してくれたため、非常に快適だったそうです。


◆噂は本当!? 食べ物がおいしくない……

イギリスのイメージとして、よくあげられるのが「食事がおいしくない」。
半信半疑だったじゅんこさんも、移住後しばらくは現地の味を受け入れられなかったそうです。

「でも、住んでいればだんだん慣れてくるものですね。
舌のレベルが落ちると言ったら失礼ですけど・・・次第においしいと感じるようになりましたよ」

と笑いながら語ります。

どうやらイギリスの都会では料理をする習慣があまりなく、外食で済ませてしまうことが多いのだとか。
そのため、味が多少悪くてもお客さんがくるため、お店は味に対するこだわり意識が薄いのかもしれません。

「ただ、色んな国の人が集まっている場所だから外食のバリエーションはとても充実していました。
日本では見かけることも少ないレバノン料理が食べられるお店などもありましたよ」。

3.ロンドンの学校事情

赴任中に妊娠し、一時帰国して出産後再び渡英したじゅんこさん。
コミュニティで知り合ったママ友から教育環境の話もたくさんうかがったといいます。

例えば、イギリスには日本人学校、インターナショナルスクール、現地のパブリック(公立)、プライベート(私立)などの学校があります。
日本人学校は現地にいる日本人の子どもが通っている場所ですが、公立・私立でも学校によりアジア人が多い、白人が多いなど生徒の層や特色はさまざま。

「親同士の交流が持てる、親にとって居心地の良い学校だからといって日本人学校!と決めてかからず、ひとつひとつの学校を実際に見て回って選ぶのがいいと感じました。
親の居心地が良くても、子供がうまく適応できないかもしれませんからね」。

さらに、インターナショナルスクールに通わせると、日本の夏休みの宿題並みに大量な宿題が毎週のように出るという話も。
その宿題がしっかりやれているか、まちがっていないかなど監督したり、子どもに教えてあげるのはもちろん母親・父親の仕事なので、覚悟は必要です。

また、11歳以下の子どもがいる家庭は、学校以外にも注意が必要です。
イギリスには11歳以下の子どもを一人にしてはいけないという法律があり、もし子どもを一人にさせていたら逮捕されてしまうのです。
小さなお子さんがいる家庭は、ヘルパーやベビーシッターを雇って、子どもが一人にならない対策をしっかりとしましょう。

4. 生活を楽しむことを忘れずに

最終的に7年半ほどロンドンに滞在していたじゅんこさんは、海外赴任中のことを振り返ってこう語ります。

「最初はうまく現地の人や海外赴任中の奥さんたちになじめなかったです。子どもがいればママ友!ってすぐに知り合いができたかもしれないですけどね。
でも子どもが学校に入ると、子どもどうしの付き合いを通して、半年後には親のコミュニティーになじむことができました」。

もともとアンティークや芸術に興味があったじゅんこさん。
お子さんを授かる前は、イギリスでは美術館が無料だったので、さまざまな美術館を巡ったりアンティークマーケットに行ったりと充実した日々を過ごしていたそうです。

「美術館巡りなどをしながら生活していたので、旅行の延長のような感じでしたが、子どもができてから多くの人と関わるようになり、本格的に“この地に住む市民になった”と感じるようになりましたね。
ロンドンに住むのは本当に楽しかった。ずっと住んでいたいと思うほどです。
まあ、物価が高かったり、地下鉄が時間通りに来ないのは玉にキズですけど」。

また、ロンドンに赴任を考えている人にこんな言葉を送ってくれました。

「私はたまたま芸術やアンティークの趣味があったからとても楽しんで生活できました。
でも、もし趣味がないという人は、どうやったら楽しく生活できるかを考えて、積極的に動いてほしいです。
そうやって少しずつ生活を作っていくのが、日本を離れて海外で生活することの醍醐味だと思います」。

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