◆今回取材に協力してくださった海外赴任経験者◆
けいこさん(仮名)
赴任国:中国(香港)
期間 :2008 年7月~2014年6月
家族 :夫、息子

1. 性格柄、なにかと心配事もあった香港生活

けいこさんは、金融関係の会社に勤めている旦那さんの赴任に伴い、香港での生活をスタートしました。

香港に限らず、アジア圏に住む場合はメイドや運転手を住み込みで雇わなければいけないルールがある地域もあります。
しかし、人にものを頼めない性格だったこと、メイドとはいえ言葉も通じない人と一緒に住むことに抵抗を感じたとのこと。
そこで、所属していた日本人会に相談したところ、特別にパートタイムで雇うことを許してもらえました。

「メイドも運転手も悪い人ではありませんでした。
でも、いまだに運転手が子供を誘拐する事案があるという話なども耳にしていたので、どんなにいい人でも全幅の信頼を置くことはできなかったんです。子どもの学校の送り迎えも、心配だったので自分でやっていました」

中国にいく際、日本人だからと差別を受けるのではないか?と心配する人も多いですよね。
差別などの問題についてもけいこさんにうかがってみました。

「住んでみて感じたことですが、どうやら香港の人は日本人や白人を上に見ている傾向があります。だから、気分を害するような差別を受けたことはありませんし、むしろ、よくしてもらったことの方が多かったですよ。
現地の人からの差別よりも、住んでいる居住区で駐在員の中でもランク付けされているような感覚があり、“●●地域に住んでいるけいこさん”という見方をされる方が気になりました」

けいこさんは6年ほど香港で生活していましたが、その間に何人もの駐在員の奥様が帰国してしまうのを見たといいます。

「日本に比べると街は汚いです。この環境に耐えられない、という方は多かったですね」

けいこさん自身は移動の際には主に車を使っていたため、臭いなどは気にならなかったそうですが、香港に来て驚く日本人は多いようです。
また、特別治安が悪いと感じたこともなく、実際に駐在中に大きなトラブルが起きたということもなかったといいます。

2. 現地で少しずつ身につけていった広東語と英語

「中国語にはあまり苦労はしませんでした。私も息子も、特別中国語を習ったりはしませんでした。ですが、香港には語学学校がたくさんあるので、習うチャンスはたくさんあります。学校の他にも、家庭教師や大学の講座などがありますね。
香港の公用語は広東語になるので、長く住むことを考えていらっしゃる方は広東語を話せた方がいいと思います。タクシーに乗る時などに必要になるので、私も少しは話せるようになりましたが、実生活で身につけられました」
とけいこさん。

香港の人は一度仲良くなると親戚のように扱ってくれる方が多く、完璧じゃなくてもとにかくコミュニケーションを取ることが大事、と話してくれました。
広東語ができたら、もっと打ち解けられたのにな、と少し悔しそうにお話しされました。

逆に、けいこさんも息子さんも苦労したのは英語。
特に息子さんはインターナショナルスクールに通っていたので、最初のうちは家庭教師を雇って英語を勉強していました。
しかし香港の家庭教師は給金が高く、いつまで続けようか悩んでいたところ、学校の教師がチューターをやってくれる制度があることを知りました。
さっそくママ友に情報をもらい、人気のある教員に息子さんの指導をお願いすることができたそうです。

「息子の学校の入学試験の際、親も面接があったので多少の受け答えはできるように勉強しました。
入学してからは、先生とのやり取りはメールがメインなので話すよりも文章を作ることができればなんとかなりますよ」

そのほか、息子さんは補習校(日本人学校に行っていない子が土・日に通い、日本語や日本の文化・歴史などを教えてくれるところ)や、日本の学校で学ぶことを教えてもらえる日本の学習塾にも通っていたそうです。

「帰国後は日本の学校に帰国子女受験できるように、学習塾に通わせているご家庭は多かったですね。
英語、中国語、日本語の三か国語を習わせる方もいましたが、成績がついていかない子は学校から一度中国語から離れるように言われていました」

けいこさん自身もある程度英語が使えるようになったと言いますが、ほとんど実生活で学んだそう。

「英語が得意なママ友の言い回しを真似したり、良く聞いて覚えたり。本当に生活を通して英語ができるようになったと感じています。
その分、子供の学校以外の場所で使う英語は全然できませんけど」

3. 香港に馴染み、成長や変化があった

香港に来てからしばらく経ち、けいこさんは“自分は変わったな”と思ったことも多かったそうです。

「まず、トラブル対応がかなり上達しました。今は多少のことなら動じませんよ。
それに、サービスを評価する習慣ができました。香港のサービスは本当にピンキリなので、あそこのお店の対応はいいとか病気を看てもらうならどこの医者がいいとか、ほかの奥さんたちと情報を共有したりしていました」

けいこさんの話によると、医師をうまく選べば日本よりも良質な治療を受けることができることもあるそうです。
実際、けいこさんの息子さんはぜん息を患っていたそうですが、知人に気管支の第一人者の先生を紹介してもらい、質の高い治療を受け、ぜん息を完治させたのだとか。

ほかにも、香港は街の道端で漢方を売る店が多く、体調不良を覚えたらすぐに買いに行けたのは大きかったといいます。

「最初は日本から薬を持ち込んでいました。でも、香港の薬の方が効果が強めに作られているようで、効きがいいということはありました。
漢方も試しましたよ。はじめは警戒していましたが、効果があることを知ってからはちょっと悪いところがあるとすぐ漢方を買うようになりました」
とけいこさん。

「漢方薬に抵抗がある人には、まずは“漢方茶”をおすすめします。お茶なので気軽に飲めますし、効果はバツグンです。
義父が遊びに来ていた時に、咳が止まらなくなってしまったので咳止め茶を買って飲んでみたところ、ぴたりと咳が止まり驚いたのを覚えています」

どこにでもあるチェーン店のようなお店で普通に漢方やその材料となる乾物を売っているので、漢方茶の魅力を理解した後はご自分で漢方茶を作ったこともあったそうです。

4. ふっ切れてからより楽しくなった香港生活


香港での生活に慣れてきたころ、日本人の学生があまりいないインターナショナルスクールへ息子さんの入学が叶いました。
それに合わせて引っ越しをしました。

「新しく住む場所は駐在員が少ないエリアでした。
日本人があまりいない場所での生活には不安もありましたが、新しい場所で出会った現地の人や香港に永住される日本人の方と知り合ったことで駐在員社会とは違う世界に触れ、今まで以上に香港生活が楽しくなりました」

“駐在員”という立場を離れ、周囲からいろいろ言われることも耳に入らなくなったそうです。

その頃には完全に香港になじんでいたけいこさん。
任期を満了し、旦那さんは日本の年度に合わせて帰国したそうですが、海外の学校の学年は6月終わりなので学年を終了するまで息子さんと2人で香港に残ったのだとか。

「最後の半年は夫もいないので、ホテルが経営するサービスアパートのようなところに住んでいました。
トラブルがあってもすぐに対応してもらえるので、短期間の赴任の時や、こちらでの生活が不安な方はこういうところで生活するのもいいと思いますよ」

息子さんと2人きりの生活でも、快適に過ごせたようです。

5.日本ではできない経験をして、一回り大きくなった

香港での生活を振り返り、けいこさんは語ります。

「初めての場所で生活するのだから、戸惑いや不安も多いですよね。特に香港は狭くてごちゃごちゃしていて、それがストレスになることもありました。
でも、狭いエリアにぎゅっと凝縮されているからこそ、便利で合理的でもあります。そのためか、香港人は合理的な考えの方が多い気がします。
日本に帰国して感じるのは、日本人は親切で丁寧だけど、マニュアル通りでちょっと融通がきかないところがあるということですね」

香港で6年生活したけいこさんに、「またあちらで生活したいですか?」と聞いてみました。

「はい。やっとあちらでの生活にも慣れ、気持ちに余裕が出てきたころに帰国になってしまったので、やり残したと思うことも多いです。
広東語も少し分かるようになりましたし、今行けばもっと楽しく生活できると思います。
日本では少し潔癖な部分があった私ですが、香港という私の知らない世界に飛び込んだことで、色んな考え方ができるようになりましたし、世界を見る目も変わりました。本当に、得難い経験になったと思います。性格はだいぶ大雑把になってしまいましたけどね」
とけいこさんは笑顔で答えてくれました。


帰国から1年経った今、けいこさんは中華料理習得に打ち込んでいます。

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